(当記事は、2020年9月21日に開催した気候ネットワーク理事・平田仁子さんのオンライン講演会の報告です。) 

新型コロナ感染症流行が収束せず、集まりをなかなか持てない中で、会として初めて、オンラインでの活動に取り組みました。まずは小規模な学習会を企画し、メールで賛同人の方々にお知らせしたところ、学習会前日までに60人の方々からご参加の申し込みがありました。講師としては気候ネットワーク理事の平田仁子さんにお願いし、「気候危機をどうくい止めるか?-脱炭素・脱原発社会に向けて」と題してご講演いただきました。

当日は33人の参加で始まり、一時間少々の平田さんのお話、若干の質疑応答と、福島みずほ議員のまとめの2時間の学習会となりました。豊富な資料を用いての平田さんのお話はわかりやすく、質疑応答のやりとりも、やや聞き取りづらい場合もあったものの、活発に行われ、むしろ、地方からもご参加いただけるなど、良い試みになったと思います。以下、平田さんの講演の内容です。

平田さんのお話

まず、今の気候危機の実態をみてみましょう。東アジア・南アジアで続く洪水など異常気象の頻発、熱波でのシベリアの高温や世界各地での山火事、氷の融解などの大きな気候危機の主因はCO2排出による気温上昇で、1850年代の工業化以降、地球全体で約1度上昇し、直近の2015-19年は、観測史上、最も暑くなりました。気候変動の影響は深刻で、自然災害は紛争と同様に人の大規模な移動をもたらしますし、気温が35度を超えると農業・建設業などの生産性が著しく低下し、雇用が失われてゆくことにもなります。気候の安定は世界の社会情勢の安定に欠かせないものです。

けれども、脱炭素を進めることでこの地球温暖化を食い止めることが可能だと私たちは考えています。パリ協定では、気温上昇を1.5~2度にという目標を掲げていますが、これを実現するには、現在、世界のCO2排出の3割を占める最大の排出要因の石炭火力発電を2030年までに80%削減し、2040~50年には全廃することが必要です。国連事務総長も各国に呼び掛けていますが、この10年の行動強化がキーになります。

では、日本の私たちは何ができるでしょうか。日本は世界で5番目の排出国で、石炭火力による発電がその最大要因(排出量の4割)ですが、2018年でいまだに年間1,200百万トンを超える温室効果ガス排出水準や、2030年度までに2013年度比-26%という削減目標は、ともに全く不十分です。政府の2030年の電力構成見通しは今後も原発・石炭火力依存で、原発事故の反省も気候変動への危機感もありません。原発は今後廃炉が見込まれ、そもそも脱炭素プレーヤーにはなりません。石炭火力発電所は現在も建設中や計画が続いていて、アセスメント逃れの小規模発電も多く、完全に温暖化対策に逆行しています。事業者はいまだに石炭火力頼みで2012年以降の石炭火力新設計画は50基もあります。政府は非効率発電所を大量に廃止すると言っていますが、新規建設で全体的には依然として大容量で稼働しますし、「革新的技術=イノベーション」で脱炭素をめざすといいますが、提唱されているプランは2030年までの実用化は不可能なものです。日本がパリ協定に整合する脱炭素化を行うためには、原発は即時停止し、石炭火力発電は2030年までに脱却し、エネルギーミックス全体を検討する「フェーズアウト計画」を策定してゆく必要があります。

そもそも、世界ではすでに脱石炭火力は常識で、58%の国が2030年にゼロ見込みで、71%が全廃をめざしており、日本・韓国のほかに石炭産出国はゼロ目標を持ちませんが、オーストラリアやポーランドなどの産出国でも減らしてはいるのです。G7では日本が最大の石炭火力依存国です。2019年にOECD諸国全体で再生可能エネルギーによる発電量が石炭火力を超えましたが、石炭火力から再生可能エネルギーへの転換のランキングをOECDとEU28か国でみると日本は最下位です。今こそ、日本は石炭火力の新規建設をやめる決断をすべきです。再生可能エネルギーはコスト的には安くなってきており、2030年には再生可能エネルギーと省エネルギーで電力需要をまかなうことはじゅうぶん可能です。

まとめとして

1. 原発は温暖化対策ではない。脱原発・脱石炭を両方実現してゆかねばなりません。
2. 2030年石炭ゼロは十分に実現可能で、これこそとるべき選択肢です。
3. 再生可能エネルギー導入への支援、省エネルギー、を更に強化すべきです。

平田さんのご講演の後、以下のような質疑応答がありました(質疑応答のすべては記載しておりません)。

Q:天然ガスはだめなのですか。
A:天然ガスもCO2を出しますが、石炭火力の1/2ですので、つなぎとしてはあり得ます。

Q:世界の気候については寒冷化説もあるようですが。
A:個々の研究者で温暖化説に懐疑的な人はいますが、最も信頼できる国際機関のIPCJは温暖化による気候変動を95%確言しており、こちらが科学界の主流です。

Q:日本では、各地のミニ開発のメガソーラーや風力発電などの、乱開発・環境破壊が懸念されていますが。
A:太陽光・風力への反対運動は国内で数十件ありますね、石炭火力へのものはないのですが(苦笑)。ドイツでは再生可能エネルギーの1/2が地元所有なのですが、地域地域での協議の専門組織が置かれています。こうした地産地消型のシステムが本来は望ましいと思えます。環境アセスメントは必要ですし、条例を作っている自治体もありますね。

最後に福島みずほ参議院議員から、日本ではまだ意識されていないが、2030年脱炭素問題は脱原発運動と共にやっていかないとならない、石炭火力は産業・ビジネス面からもダメなのだとキャンペーンしていきましょう、との提言がありました。