今年2020年はコロナ禍のもと、当初、参加者はオンラインと会場(参議院議員会館)と選択ができるようにという集会を設定しましたが、会場のお申し込みはほとんどなく、オンラインのみに切り替えての集会となりました。オンラインでは119人の参加申込があり、集会当日には90人ほどの方が最後までご参加くださるという、ほぼ例年と変わらない参加状況で集会を持つことができました。以下、当日のご報告です。

武藤類子さんのお話:
「原発事故から10年 福島の現実から見えてきたもの」
 
夢中で走ってきた10年、長かったのか、短かったのかと思うようですが、まずは現状について。(パワポを表示しながら)最初に見て頂くのは、今年の2月29日から3月1日に福島で行った「福島はオリンピックどごでねぇ!」アクションの様子です、聖火リレー出発地の予定だったJヴィレッジと、野球・ソフトボールの予選予定地だったあずま運動公園で、10カ国語のプラカードを掲げて行いました。Jヴィレッジはスポーツ施設だったものが、3.11後に除染作業用地になりました。2018年に東電から国に返還されて後、町の子供たちが芝の植え替えなどをしていたのですが、東電はここを除染ではなく、緩い基準の原状回復工事だけで返還していて、線量は高いのです。リレーコース周辺にも線量の高い地点があるのですが、コースの選定のために県は2億3千万円を計上し、電通などに支払っていました。また、これは第一原発構内ですが、まだ高線量下で作業中です。けれども一般市民の見学コースが作られました。見学は短時間だからとの言い訳がされています。

現在の喫緊の問題は汚染水の処理ですが、敷地が満杯なので、海洋か大気中に放出、より簡単なのは海洋放出、と国が表明しました。これは海洋放出反対の「海の日スタンディング」の様子ですが、県内の漁業者も県内の41市町村(全体の約7割)も、反対、あるいは慎重に、との意見を表明しています。汚染水に含まれるトリチウムは危険性が高く、トリチウム以外にも残る放射性物質があり、政府や東電の説明は不都合なことを隠しています。反対は多いですし、すぐに放出の必要もないのです。県外にも「これ以上海を汚すな市民会議」で反対を呼びかけています。ほかにも汚染土の再利用の問題、再生可能エネルギーのためのバイオマス発電推進に名を借りて汚染材の利用などの問題もあります。

上記のような問題への対応よりも、とにかく復興の加速化が国や県の姿勢で、莫大な復興予算がついています。その事業の一つは「東日本大震災・原子力災害伝承館」ですが、この建物は原発から4キロで津波の危険性もある地域ですし、原発との間にあるのは汚染物質中間貯蔵施設です。ここでは語り部の人には国や東電の批判は禁止され、復興のみ強調されています。また、アメリカの原爆研究のハンフォード核施設、ここでは第二次大戦を終結したとして原爆が礼賛されていますが、これをモデルに研究拠点を作るとの動きもあります。

一方、2019年9月19日には、東京地裁で福島原発事故刑事告訴について東電側全員無罪の不当判決が出されました。2012年の告訴以来、37回の裁判の中で立証されたいろいろな事実があります(注記:昨年の集会の中で報告があります)。今年の9月11日には控訴趣意書を提出しました。その後、2020年9月30日には仙台高裁で、国と東電の責任を認める画期的な判決も出ましたし、私たちも、きちんと責任をとらせるべく、めげずにやってゆきたいと思っています。

なお、裁判については、彩流社から、海渡雄一弁護士が「東電刑事裁判 福島原発事故の責任を誰がとるのか」を出版されたことをご紹介します。

福島みずほ参議院議員「国会の状況についての報告」

現在のコロナ禍の問題をみてみますと、非正規雇用者の解雇、DVや児童虐待の増加、この間、女性の自殺が異常に多くなっていること、救済のための給付金も、受給権者は世帯主で女性に恩恵がわたらないなど、原発もそうですが、人びと全体にふりかかる問題ですが、弱いところに最も大きな問題が出るという構造になっています。

原発については、菅総理は2050年までにカーボンゼロと言いましたが、中身はエネルギーミックスはやめないというものです。また、核のゴミの最終処分場についても、住民の反対にもかかわらず調査に応募する自治体が北海道で出てきています。これは、基地を沖縄に押し付けるのと同様、財政力の弱さを利して核のゴミを北海道に押し付けるものです。全国の問題として取り組まねばなりません。汚染水海洋放出も皆で止めてゆきましょう。

千葉親子さんのお話:
「小児甲状腺がん患者・家族と共に~原発事故とは関係ないと言われ続けて~」
 
私は原発から110キロ離れた会津に住んでいますが、出会いがあって、甲状腺ガン支援グループ「あじさいの会」の活動を始めました。当初は情報交換のためのカフェ事業から、次にアドボカシー、そしてアウトリーチと活動を広げています。

県で2011年10月から始めた県民健康調査では、甲状腺ガンは明らかに地域差があり、避難区域で高くなっています。けれども県は、被曝線量は少ない、チェルノブイリに比べると発症までが短すぎるなどとし、2019年2月には、これまで一度も議論していなかった解析方法を用いて、「甲状腺ガンは被爆と関係なし」との結論を出しています。精密な検査のしすぎで治療の必要のないガンまでみつけているという「過剰診断論」も根強く、学校からは検診の見直しの要求など出ていないのに、検査の縮小・中止などを提言する人びともいます。県の報告後、あじさいの会では原発と健康被害の因果関係についての調査の要望書を県に提出しました。甲状腺ガンの手術の実態については、重症例が多い、再発もある、過剰診断ではないとの学会報告(2019年10月日本甲状腺学会)もあるのです。

患者さん達については「3.11甲状腺癌子ども基金」のアンケート調査がありますが、患者さんの不安や悩みは多く、福島県民への差別の心配もあって、診断後、進路に困難を感じたり、また相談相手も限ってしまうなどの傾向が強く見られます。あじさいの会では、こうした孤立した患者さん、家族をつなぐ活動を今後も継続してゆきますので、ご支援をよろしくお願いします。

武藤さんの資料の最後は、冬の山中にひっそりと春を待つ山繭蛾の美しい薄緑のサナギ、千葉さんの資料の最後は会で作った押し花と雨の中でも明るい水色のあじさいの花でした。まだまだ原発事故の問題が大きく残っているのに、県と国はそれを無視して復興のみを言っている。うわついた復興ムードに抗して、本来の地についた暮らしを取り戻す、そういったお二人の静かで強い志を感じました。オンラインでは最後の全員の拍手、みなで気持ちを確認し合うという会場の空気がないのはほんとうに残念でしたが、最後まで多くの方が参加してくださったこと、ありがとうございました。